躯幹部広範囲CT検査の実際 (1)
- ご紹介する症例は臨床症例の一部を紹介したもので、全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。
- 効能又は効果、用法及び用量、警告、禁忌等を含む使用上の注意につきましては、添付文書をご参照ください。
躯幹部広範囲2相造影CTによって診断された腎細胞癌肺転移の一例
腎細胞癌肺転移(イオパミロン注370シリンジ 100mL使用例)
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はじめに
近年のマルチスライスCTの急速な進歩により,薄いスライスによる広範囲かつ多時相の撮影が可能となってきている.しかしながら被曝量や画像データ量の増加という問題があり,必要最小限の撮影で最大限の情報を得ることのできる撮影法の工夫が必要である.また,日常臨床における検査の効率性や,造影効果の解析が容易となるという観点から,撮影プロトコールは可能な限り単純で多様な疾患に対応できるものが望ましい.特に転移検索やスクリーニングなどを目的として胸部から骨盤部までを撮影する躯幹部広範囲CTでは,病変検出のみならず質的診断に耐えうる画像が要求され,そのためには適切な撮影時相で高い濃度コントラストを有する画像を得ることが重要である.
当院では2003年のマルチスライスCTとPACS導入当初より単一のプロトコールによる躯幹部広範囲CTを施行してきており,これまでに蓄積された症例は1万件を超えるに至っている.本稿では躯幹部広範囲CTが特に有用であった症例を提示しつつ,高濃度造影剤の有用性と意義について造影剤薬物動態理論的な見地から述べる.
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症例解説・画像所見
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撮像方法の考え方
細胞外液性造影剤による薬物動態評価においては,高い濃度コントラストをもって適切な動脈優位相と平衡相を撮影することが最も重要である.薬物動態理論上,動脈優位相における濃染は組織の血流量と血管透過性を,平衡相は細胞外液量を反映しており,これら二つの時相の造影効果から組織の細胞外液性造影剤の動態を類推できるためである.
動脈優位相の造影効果は単位時間あたりに投与されるヨード量に比例する.したがって同じ注入速度であってもより高濃度の造影剤を使用すれば,より高い濃度コントラストで動脈優位相を撮影することができる.我々の施設では造影効果の解析・比較を容易にするため,被検者の体重にかかわらずヨード濃度370mg/mLの高濃度造影剤を22G留置針を用いて3mL/秒で注入することを基本としている.症例毎に心機能や循環血液量が異なるため,造影剤の臓器への到達時間を正確に予測することは極めて難しい.しかしながら3mL/秒程度の注入速度では比較的長く高い造影効果が持続するため,造影剤注入開始40秒後の撮影で安定した動脈優位相を得ることができている.適切な動脈優位相を得るためにはボーラストラッキング法なども有用であるが,撮影プロトコールが煩雑となり診療放射線技師の技術的習熟度に左右されるなどの問題があり,我々の施設ではCT Angiographyなどの特殊な造影検査でのみ施行している.
我々の施設では肝病変の精査を目的とした造影検査でのみ門脈相を含む多相造影を行っており,通常の躯幹部広範囲CTでは門脈相の撮影は行っていない.これは単純CTと動脈優位相の組み合わせの方が門脈相の撮影を追加するよりも病変検出・質的診断ともに優れ,被曝量の低減に寄与すると考えられるためである.