狭心症の診療と治療におけるパラダイムシフト
- ご紹介する症例は臨床症例の一部を紹介したもので、全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。
- 効能又は効果、用法及び用量、警告、禁忌等を含む使用上の注意につきましては、添付文書をご参照ください。
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はじめに
冠動脈疾患の解剖学的な確定診断のためには, 依然として侵襲的な冠動脈造影が必要である. カテーテルが小口径になるなどのデバイスの進歩により, 血管や神経損傷の危険性, 合併症の頻度は減ったものの, 危険性は残っている. 今回, 冠動脈CTを利用して診断・治療を行った狭心症の症例を紹介する.
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症例
症例 | 50歳代, 男性 |
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主訴 | 2週間前から歩行時の胸部圧迫感を自覚し, 安静にすると軽快という |
既往歴 | 特になし |
冠危険因子 | 糖尿病なし(HbA1c 5.2%)
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心筋逸脱酵素 | トロポニン-Ⅰ<0.04ng/mL |
負荷心電図(Master-Double)
冠危険因子は少なく, スクリーニング検査上でも有意な所見を認めなかった.
負荷心電図(Master-Double)では, Ⅱ, Ⅲ, aVF, V5-6誘導で, 境界域のST-T変化を認めた.
有意な所見でないものの, 典型的な労作時胸部症状を呈したため, 新規発症の狭心症を否定できず. 抗血小板剤, βブロッカーの投与を開始し, 後日, 冠動脈CTを行った.
図1 心電図
冠動脈CT
冠動脈CTでは, 心尖部を回る大きな左前下行枝の中部(第2対角枝分岐部)に石灰化のないsoft plaqueを伴った90%狭窄を認め, 他枝には病変を認めなかった.
この時点でも, 労作性の胸部不快感は認められており, 本人の希望もあり, 冠動脈造影および冠動脈形成術を行う目的で入院予定とした.
冠動脈造影と冠動脈形成術
冠動脈造影で左前下行枝#7に90%狭窄を認め, 同日中に同部位に対して冠動脈形成術(薬物溶出ステントTAXUSφ3.5×20mmを留置)を行ない, 良好な拡張を得た.
術後, 8ヵ月後の再狭窄はなく, また胸部症状の出現もなく経過している.
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まとめ
本症例は, 新規発症の典型的な労作時胸部症状にて来院した50歳代の男性の症例である. 冠危険因子は少なく, スクリーニング検査上でも有意な所見を認めず, 負荷心電図においても軽度のST-T変化を示すのみであった. 本症例のように, 50歳代で典型的有症状の場合の冠動脈疾患の尤度は, 91.3±2.5%との文献的考察もある(NEJM June14, 1979)が, 臨床的には診断に難渋したといえる.
狭心症のリスクスコアは低リスクと考えられ, 従来の診断プロトコールによれば, 追加的な非侵襲的検査として, 負荷心臓超音波図, 負荷心筋シンチグラフィーなどを行うこととなるが, 人的資源, 費用効果の点において問題が残っていることや, 疾患の緊急性に対応できないという問題がある.
最近では, 狭心症診断の新たなmodalityとして, 冠動脈CT/MRIに関する知見が多数報告されるようになってきており, 特に多列CTの登場により, 診断ツールとしての冠動脈CTの成長が目覚ましい(JACC Oct9, 2007他). 冠動脈CTは簡便に冠動脈の解剖学的診断が可能で, かつ病変部のプラーク分布や石灰化などの治療に役立つ情報が得られるのが特徴で, 本症例においても冠動脈形成術を行う際の情報として有用であった.
迅速な診断と治療が求められる心血管病の領域では, 今後, ますます冠動脈CTの役割が大きくなっていくと考えられる.
当院における心臓CTの撮影条件 | ||
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CT使用機種 |
SOMATOM Sensation Cardiac 64(シーメンス社製) | |
スキャン条件 |
管電圧 |
120kV |
管電流 |
770eff. mAs | |
管球回転速度 |
0.33秒 | |
ヘリカルピッチ |
0.2 | |
撮影範囲 |
気管分岐部から心尖部まで | |
コリメーション |
0.6mm×64収集 |
造影剤注入条件 | ||||
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使用造影剤 | 濃度 | 注入量 | 注入速度 | スキャンタイミング |
イオパミロン | 370mgI/mL | 80mL | 4.5mL/秒 | 上行Ao 150HUにて5秒後からスタート |
本症例における冠動脈形成術のアプローチと使用デバイス | |
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治療部位 | 左前下行枝#7 |
治療戦略 | 薬物溶出ステント留置 |
アプローチ部位 | 右橈骨動脈 |
ガイディングカテーテル | 6Fr. IL4.0 |
ガイドワイヤー | Route |
バルーンカテーテル | Hiryu φ3.75×12mm |
ステント | TAXUSφ3.5×20mm(Boston Scientific社) |