心臓CT活用の実際(2)
- ご紹介する症例は臨床症例の一部を紹介したもので、全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。
- 効能又は効果、用法及び用量、警告、禁忌等を含む使用上の注意につきましては、添付文書をご参照ください。
冠動脈狭窄病変の検出に心臓CTが有用であった症例
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はじめに
非侵襲的な心臓画像診断の技術は、近年急速な進歩を遂げて、CTやMRIといった最新画像診断技術を用いて、短時間で心臓の3D画像を撮像することが出来るようになっている。しかしながら、これら高度心臓画像診断は、他の部位の検査に比して検査時間が長く、また撮像後の画像再構成や解析にも労力と時間を要する検査であり、その幅広い普及には問題点もある。このような心臓画像診断の問題点を解決するために、心臓画像クリニック飯田橋は、日本初の心臓特化型イメージングセンターとして、2009年11月に開設された。画像診断装置は、マルチスライスCT 1台(Philips社製Brilliance 64)、1.5T MRI 1台(Philips社製 Achieva 1.5T Dual gradient 32ch system)、超音波装置1台(Philips社製HD11XE)を有し、一人でも多くの患者に最高・最良の画像診断を提供する施設を目指している。循環器疾患に特化しているため、循環器内科医が心電図検査を含めた通常の循環器診療を行い、患者に最適な画像診断法、撮像方法を選択し、依頼医の臨床上の疑問により正確に回答できるよう努めている。特に心臓CTに関しては、短時間で高分解能の冠動脈造影像が作成可能なため、胸痛があり、冠危険因子を持つ、負荷試験陽性の患者には積極的に心臓CTを勧めている。
ここでは、心臓CTが迅速な冠動脈病変評価に有用であった症例を紹介する。
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心臓CTの撮像プロトコール
当施設では、心拍数70bpm以上の患者に対しては、検査1時間前にβ遮断薬(メトプロロール20-40mg)を内服させている。心拍数をコントロールすることで画像のクオリティーを保てるだけでなく、被ばく量を低減化することも可能である。高濃度造影剤の使用は、注入速度を極端に上げることなく1秒当たりの注入ヨード量を多くすることが可能であり、造影能の向上に有用と考え、当施設ではイオパミロン注370シリンジを使用している。
使用機器
CT機種 | Brilliance 64 【Philips社製】 |
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ワークステーション | ZIOSTATION 【ザイオソフト社製】 |
造影剤注入条件(造影剤:イオパミロン注370シリンシ)
注入量 | 注入速度 | スキャンタイミング | ||
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Test Injection | 造影剤 | 10mL | 25.0mgI/kg/sec | - |
生理食塩液 | 20mL | |||
本スキャン | 造影剤 | 375mgI/kg | 25.0mgI/kg/sec (15秒間注入) |
Test Injection法より得られた上行 大動脈のピークから3秒後に撮像開始 |
生理食塩液 | 30mL |
撮像条件
撮像方法 | Retrospective | Prospective |
---|---|---|
管電圧 | 120kV | 120kV |
管電流 | 800~1400mAs/Slice | 170~210mAs |
検出器構成 | 64×0.625mm | 64×0.625mm |
スキャン速度 | 0.42 or 0.5sec/rot | 0.42sec/rot |
ピッチ | 0.15~0.2 | ー |
スキャン開始部位 | 冠動脈最上部から15mm上 | 冠動脈最上部から15mm上 |
スキャン終了部位 | 心尖部から15mm下 | 心尖部から15mm下 |
スキャン範囲 | 120mm | 120mm |
総撮影時間 | 9~12秒 | 心拍により変動 |
撮像方向 | 頭→尾 | 頭→尾 |
再構成スライス厚/間隔 | 0.67/0.33mm | 0.8/0.8mm |
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症例解説・画像所見
【患 者 背 景】 | 70歳代 女性(体重55kg) |
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【主訴または経緯】 | 労作時の胸部圧迫感,下顎の放散痛 |
【診断名】 | 不安定狭心症(責任病変 LMT to LAD#6) |
【現病歴等】 | シェーグレン症候群、高血圧、高脂血症 |
症例解説
高血圧と高脂血症で加療を受けており、2週間前より労作時の胸部圧迫感と下顎へ放散する痛みが発現し、心臓CT検査目的で来院した。
CT上、左冠動脈主幹部から左前下行枝にかけて高度狭窄を認める。狭窄部位には、小さな石灰化を含む大きな非石灰化プラーク(Mixed plaque)とpositive remodelingを認める。患者は、CT検査当日 CCUに緊急入院となり、緊急PCIが施行され、同部位に冠動脈ステントが留置された。
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心臓CTの新しいアプローチ「冠動脈プラーク解析」
心臓CTの登場により、これまでの冠動脈造影(CAG)では可視化することが困難であった動脈硬化性プラークが検出できるようになってきた。動脈硬化性プラークは長い経過の中で不安定化し、急性冠症候群を引き起こすことが知られており、不安定プラークの検出は循環器領域の大きな課題である。不安定プラークの組織学的特徴として、1)薄い線維性被膜、2)大きな脂質コア、3)炎症細胞浸潤、が挙げられている。心臓CTもX線を使用した検査であるために、プラークの組織性状診断には限界があることが知られており、問題点として冠動脈CT値が撮像条件や造影剤の注入条件の違いなどによりばらつくことが挙げられる。このような中で、我々の施設では、イオパミロン注370シリンジを用いた一定の撮像条件にて、ザイオソフト社製ZIOSTATIONを用い、プラークのCT値をcolor mapしたり、CT値のprofile curveを描くことにより、出来るだけプラーク性状に迫る工夫をしている。今後は、最適な造影剤の注入条件や撮像条件の検討と共に、CTのハードウェアならびに解析のソフトフェアの進歩により、益々この分野が発展していくことが期待される。
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まとめ
循環器疾患は、その診断と治療にスピードを要求されることが多々ある。虚血性心疾患、特に冠動脈の高度狭窄は、完全閉塞を来しやすく、心筋梗塞につながりやすい非常に危険な状態と考えられる。典型的な症状を呈する場合、狭心症の診断は容易であるが、限られた時間の問診だけで診断を確定することには限界があるのも事実である。このような場合に、胸痛から不安定狭心症を疑う患者に対して、心臓CTにより冠動脈病変を迅速に診断する意義は大きいと思われる。症例1及び2ともに、迅速な心臓CT検査により、病変の早期発見ができ、急性心筋梗塞発症以前に、適切な冠動脈形成術を行うことができた症例であった。インターベンション治療前に冠動脈病変の部位や形態が把握できていることは、冠動脈インターベンションの安全な施行の助けになると思われる。また当院では、急性の胸痛患者に対して、冠動脈病変、肺塞栓、急性大動脈解離の3疾患を除外する目的でトリプル・ルールアウトという撮影手技を実施している。
心臓画像クリニックの地域における役割
心臓画像クリニック(CVIC)は、CTやMRIなどの高度画像診断装置を主に心血管画像診断に使用するという心臓特化型イメージングセンターである。大学病院や基幹病院では、画像診断の必要な患者が非常に多く、CTやMRI検査は、平均1-2か月の検査待ちの状態であり、心臓画像診断をタイムリーに患者に届けることが困難な場合がある。そのため、早期に冠動脈狭窄を診断したい、もしくは除外したい患者を大学病院や基幹病院からCVICへ紹介されるケースが多い。また、CTやMRIなどの装置がないクリニックや中小規模の病院からは、大学病院や基幹病院へ紹介する前に、CVICにて画像診断を行い、その結果を基に大学病院や基幹病院へ紹介することで、迅速な診療連携が行われるようにもなっている。一方、大学病院や基幹病院では、入院治療の必要な患者が適切に紹介されることになり、限られた医療資源の有効活用にもつながっている。また、患者に心臓CTの画像をワークステーション上で見せ、1次所見の説明を検査当日に実施することにより、患者が自身の冠動脈の動脈硬化の状態を視覚的に把握することができ、紹介元のクリニックや病院で、冠危険因子の治療・管理に積極的になるという効果も生じている。今後も高精度の心臓画像診断を介した地域循環器診療への貢献が期待されている。
使用上の注意
9. 特定の背景を有する患者に関する注意 【添付文書より抜粋】
9.1. 合併症・既往歴等のある患者
9.1.3. 重篤な心障害のある患者
診断上やむを得ないと判断される場合を除き、投与しないこと。血圧低下、不整脈、頻脈等の報告があり、重篤な心障害患者においては症状が悪化するおそれがある。
9.1.11 高血圧症の患者
血圧上昇等、症状が悪化するおそれがある。
9.1.12. 動脈硬化のある患者
心・循環器系に影響を及ぼすことがある。
9.8 高齢者
患者の状態を十分に観察しながら慎重に投与すること。一般に生理機能が低下している。