高分解能DSCTの循環器領域における臨床応用(1)
- ご紹介する症例は臨床症例の一部を紹介したもので、全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。
- 効能又は効果、用法及び用量、警告、禁忌等を含む使用上の注意につきましては、添付文書をご参照ください。
イオパミロン注370シリンジ 75mL使用例
Flash Cardio Spiral Modeで撮像し得た心房細動症例
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はじめに
近年のMDCTは,検出器の精度向上と多列化,ガントリーの回転速度の高速化に伴い,空間分解能,時間分解能は 向上し,さらなる進歩を続けている.心臓は動く臓器であり,しかもその冠動脈を評価するためには高い空間分解能と 時間分解能が必要となる. 当院では2009年8月にシーメンス社製Definition Flashを導入した.この装置は2管球型でかつガントリーの 回転速度が0.28secであるため75msecという高い時間分解能を有し,さらに検出器も高い空間分解能を持つ ものである. 循環器専門病院であるため,対象疾患は冠動脈疾患,動脈瘤,急性大動脈解離,弁膜症等が中心であり,全検査 件数に対してこれらの占める比率が高い.これらのうち冠動脈CT検査に関しては全例Definition Flashを使用 しており,ほぼ心臓専用機となっている. ここではこのCTを活用した3例をご紹介する.
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撮像プロトコール
使用機器 | CT機種 | SOMATOM Definition FLASH 【シーメンス社製】 | ||
---|---|---|---|---|
ワークステーション | Aquarius intuition Edition ver.4 【テラリコン社製】 |
冠動脈撮影モードにはFlash Cardio Spiral,Flash Cardio Sequence,Normal Spiralの三種類の方法がある.
撮影モードの 特徴 |
Flash Cardio Spiral | Flash Cardio Sequence | Normal Spiral | |
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撮影法 | High pitch double spiral | Step and shoot | Spiral Helical | |
適応心拍数 | 60bpm以下 | 80bpm以下 | 40bpm以上 100bpm以下 | |
被曝線量 | 1~2mSv | 3~10mSv | 10~20mSv | |
空間分解能 | + | ++ | +++ |
さらに最適な撮影方法を選択するにあたって不整脈,体格,石灰化,ステント径を考慮している.
撮影モードの 特徴 |
Flash Cardio Spiral | Flash Cardio Sequence | Normal Spiral | ||
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不整脈への対応 | 適宜対応 | 単発PVC(心室期外収縮),PAC(心房期外収縮) | 徐脈を除く不整脈 | ||
体格 | 軽度肥満まで | 肥満まで | 重度肥満まで | ||
石灰化 | 軽度 | 中等度 | 高度 | ||
ステント | 3.5mm以上 | 3.0mm以上 | 3.0mm以下 |
※ 単純撮影時に体格,石灰化についての判別を行う
※ ステント径に関しては,撮影モード選択の目安としている
高度石灰化病変やステントに対する工夫
血管内腔を評価するにはS/N比,CT値,再構成関数を考慮する必要がある.当院では,IRISという逐次近似法に 属した反復画像再構成を使用しS/N比を向上させている.また,再構成関数の高いカーネルを使用しているため, 撮像条件の変更(mAsの増加)や撮像後に時間分解能を変化させデータ量を増やして画質の向上を図っている. 特にステントに対しては血管内腔のCT値を上げるため造影剤の注入速度や注入量を検討し検査を行っている.
撮像条件 | Flash Cardio Spiral | Flash Cardio Sequence | Normal Spiral | |
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管電圧 | 100~120kV | |||
管電流 | 370~456mA | 370~528mA | 344~456mA | |
検出器構成 | 2×128スライス | |||
スキャン速度 | 0.28秒/回転 | 0.28秒/回転 0.33秒/回転 |
0.28秒/回転 | |
ピッチ※1 | 3.4 | コンベンショナル | 0.17~0.27 | |
総スキャン時間(平均) | 0.54秒 | 6.54秒 | 8.03秒 | |
再構成スライス厚/間隔 | 0.75mm /0.4mm |
※1 : Normal Spiralは心拍数によってピッチが変動する.
造影剤注入条件および撮影タイミング | 使用造影剤 | イオパミロン注370シリンジ |
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テストインジェクション
上行大動脈にROIを設定し,造影剤注入開始10秒後から撮影を開始する.
造影剤注入条件および撮影タイミング | 50kg未満 | 60kg未満 | 60~80kg未満 | 80kg以上 | |
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造影剤注入速度 | 4mL/秒 | 5mL/秒 | 6mL/秒 | 6.5mL/秒 | |
造影剤注入量 | 5mL | 5~7mL | 7mL | 7~10mL | |
生理食塩液注入速度 | 4mL/秒 | 5mL/秒 | 6mL/秒 | 6.5mL/秒 | |
生理食塩液注入量 | 20mL | 20mL | 20mL | 20mL |
本撮影
造影剤注入条件および撮影タイミング | 50kg未満 | 60kg未満 | 60~80kg未満 | 80kg以上 | |||||
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造影剤注入速度 | 4mL/秒 | 5mL/秒 | 6mL/秒 | 6.5mL/秒 | |||||
造影剤注入量 | 注入量=注入速度(mL/秒)×(②-①+A) A:Flash Cardio Spiral選択時 5秒 Flash Cardio Sequence,Normal Spiral選択時 8秒 注)造影剤注入量は撮影時間を考慮し決定するため, 選択した撮影モードによりA値が異なる |
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生理食塩液注入速度 | 4mL/秒 | 5mL/秒 | 6mL/秒 | 6.5mL/秒 | |||||
生理食塩液注入量 | 30mL | 30mL | 30mL | 30mL | |||||
Flash Cardio Spiral | Flash Cardio Sequence | Normal Spiral | |||||||
撮影タイミング | ②から5秒後 | ②から5秒後 | ②から4秒後 |
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Case presentation
患者背景
80歳代 男性(体重66kg) 胸痛精査のため心臓CT検査が施行された
【 図1 】Volume rendering像
【 図2 】MPR画像(左冠動脈):左前下行枝.比較的末梢まで十分に描出されている.
【 図3 】MPR画像(右冠動脈):一部血管壁の描出が不整であるが,十分評価可能な画像が得られた.
症例解説
慢性心房細動,高血圧にて外来通院中で,胸痛精査目的で冠動脈CT検査を施行した.カルベジロール10mg, ジゴキシン0.125mgを服用しており,検査時の心拍数は35-130bpmであった.また心室期外収縮も散発し ていた.このような心房細動症例では通常Normal Spiral Mode*での撮像を選択することが多いが,心拍 数40bpm以下ではデータ欠損を生じる可能性があり,またテスト撮像で心臓の動きによるブレが比較的少な い画像であったことから,Flash Cardio Spiral Mode**で撮像した.その結果,末梢まで十分評価・診断可能 な画像を撮像することができた.本症例では心拍不整のため,至適心位相からはずれてしまうリスクはあった が,高い時間分解能を有するFlash Cardio Spiral Modeが有用だった1例であり,実効線量も2.2mSvと 低減できた.
* Normal Spiral Mode:従来のヘリカル撮像法
**Flash Cardio Spiral Mode:超高速ダブルスパイラルヘリカルによる1心拍1位相での撮像法
使用上の注意
9. 特定の背景を有する患者に関する注意 【添付文書より抜粋】
9.1. 合併症・既往歴等のある患者
9.1.3. 重篤な心障害のある患者
診断上やむを得ないと判断される場合を除き、投与しないこと。血圧低下、不整脈、頻脈等の報告があり、重篤な心障害患者においては症状が悪化するおそれがある。
9.1.11 高血圧症の患者
血圧上昇等、症状が悪化するおそれがある。
9.8. 高齢者
患者の状態を十分に観察しながら慎重に投与すること。一般に生理機能が低下している。
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循環器診療における心臓CTデータの活用法
冠動脈インターベンションを専門にするものにとって心臓CTの導入はきわめて大きなインパクトがあったといえる. 一つは診断目的の冠動脈造影の代わりとして既にCTが行われており,初回カテーテルがインターベンションという 患者が増えていることである.虚血性心疾患のスクリーニングとして安易に心臓CTを用いることには批判があるか もしれないが,少なくとも以前のように器質的冠動脈病変を否定する目的でCAGを行うことがなくなった点は患者 にとってメリットが大きい.また初回カテーテルであっても,既に冠動脈分岐のanomalyの有無,病変の部位や 形態に関する情報は得られており,どのようなガイドカテーテルを用いるかなどの治療戦略もあらかじめ計画する ことが可能である.二番目としてCTOに対するCAGではわからない病変性状や石灰化局在などに関する情報が得ら れることである.CAGでは時に閉塞長すら過大評価する場合があるが,CTを用いるとかなり正確に計測することが 可能である.多くの場合閉塞部にガイドワイヤーを進める際に障害となるのは,石灰化を伴った硬い病変にガイド ワイヤー先端がはじかれて,偽腔方向に進んでしまうことであるが,透視上石灰化があってもそれが表在性か深在性 かによって難易度が大きく異なる.心臓CTからそのような情報を事前に得て対策を講じることが可能である.3番 目としてfollow-upカテーテルの代替検査法として心臓CTを用いることが増えている.当院で使用しているdual source CTは3.0mm以上の冠動脈ステントの遠隔期再狭窄について十分に評価可能と考えている.今後も機器の 改良と発展に伴い心臓CTの臨床的有用性はますます高まっていくと予想される.
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まとめ/将来展望
高い時間分解能と空間分解能をもつDeifinition Flashも,まだ世に出て2年あまりであり,その機能は類稀なる 優秀なものであることを日々実感している.検査の適応も拡大しつつあると言えるが,撮影プロトコールも未だ確立したものとは言い難く,我々も日々試行錯誤を繰り返している. 一方でさらなる低被曝に向けても進歩している.Flash特有の超高速ダブルスパイラルヘリカルによって撮影でき たときには,実効線量を1mSv以下とすることも可能である.また逐次近似法による再構成技術の進歩は更なる低被 曝撮影を可能としている. 高い分解能と低被曝撮影が実現されることにより,循環器画像診断におけるCT検査の重要性は大きくなってくるが, 撮像法も多岐にわたるため,診療放射線技師の知識と技術も高いものが要求される.また医師もその点を十分理 解し,何が見たいのか,その目的をはっきりとさせることが大切である.