心臓CT(PCI術後)
- ご紹介する症例は臨床症例の一部を紹介したもので、全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。
- 効能又は効果、用法及び用量、警告、禁忌等を含む使用上の注意につきましては、添付文書をご参照ください。
イオパミロン注370シリンジ 75mL使用例
PCI術後心臓CT検査でstentのjailを認めた症例
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はじめに
今里ハートクリニックは,大阪市生野区に2008年3月に大阪では初となる,入院施設(15床)を有する循環器専門クリニックとして,大学病院レベルの新世代CTによる画像診断と一泊二日のカテーテル手術が可能なクリニックとして開院した.
近年,Multi-detector CTの技術の進歩は著しく,高い空間分解能や時間分解能の向上が実現されているが,これにより特に循環器領域の画像診断は飛躍的に進歩の一途をたどっている.これまでにゴールドスタンダードとして,行われてきた診断カテーテル検査に代わりうる可能性があるとの報告もある.
現在64列CTにおける冠動脈狭窄率評価においても,sensitivityやspecificityにおいて十分高い評価が得られているとの多くの報告があり,当クリニックでは,X線管球と対応する検出器をそれぞれ2組搭載し,もっとも優れた時間分解能を有するMDCT,Dual Source CT(DSCT):SOMATOM Definition(シーメンス社製)を導入し,年間約2,000例の心臓CT検査を施行している.
そして,高度な画像解析や3D画像処理を行う為に,Aquarius Net Station(テラリコン社製Workstation)2台を導入し,循環器の包括的な医療を実践することを理念におき,最先端のCT画像診断で,心臓カテーテル治療を安全,迅速,正確に提供できる環境を整えている.
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心臓CTの適応について
高機能CTにより冠動脈検査のカテーテル検査からCTへのmodality shift
冠動脈の画像診断は,従来ではカテーテルによる冠動脈造影が唯一の診断法だったが,高機能CTによっても冠動脈画像が得られるようになった.
カテーテル冠動脈造影検査が侵襲的な検査であるのに対し,心臓CT検査は造影剤を使用するとはいえ非侵襲的な検査である.胸痛のある患者でも,侵襲的な検査に対して不安感で検査を拒否されることが少なくなかったため,非侵襲的であることは大きなメリットであり,また冠動脈硬化のリスクのある患者のスクリーニングにも向いている.
カテーテル冠動脈造影検査で得られるのは,血管内腔の陰影のみであるのに対し,心臓CT検査では狭窄部位の血管径や病変長,プラーク性状や石灰化の情報はもちろん閉塞した血管の走行までも評価可能である.さらには,周囲の心筋やその他の組織との位置関係も3D(3次元)または4D(3D動画)で評価可能である.また当クリニックでは,冠動脈疾患だけの診断ではなく,心機能評価,弁の評価,大動脈解離,動脈瘤,肺梗塞などによる胸痛の原因診断も同時に行っている.
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撮像プロトコール
使用装置 | CT使用機種 | SOMATOM Definition 【シーメンス社製】 |
---|---|---|
自動注入器 | デュアルショットGX 【根本杏林堂社製】 | |
ワークステーション | Aquarius Net Station 【テラリコン社製】 |
撮像条件 | 心電図同期 | Retrospective | |
---|---|---|---|
Scan Mode | Helical scan | ||
スキャン条件 | 管電圧 | 120kV | |
管電流 | 400~1000mA | ||
撮影スライス厚 | 0.6mm | ||
スキャン速度(秒/回転) | 0.33 | ||
ピッチ | 0.2~0.42 | ||
スキャン開始部位 | 左冠動脈主幹部(LMT)から15mm上 | ||
スキャン終了部位 | 冠動脈下部から15mm下 | ||
スキャン範囲 | Whole heart | ||
総撮影時間 | 6~10sec | ||
撮影方向 | 頭尾方向 | ||
再構成 | スライス厚/間隔 | ルーチン:0.75/0.4 3D/MPR用:0.75 | |
再構成関数 | B36/B46 |
造影剤注入条件 | 使用造影剤 | 注入量 | 注入速度 | スキャンタイミング |
---|---|---|---|---|
イオパミロン注370 | 50~100mL | 体重×0.07mL/sec (撮影時間+5sec) |
ボーラストラッキング法上行大動脈にROIを置き110HUで息止め指示しスキャン開始 | |
生理食塩液 | 20mL | 体重×0.07mL/sec |
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撮像条件・注入条件設定における留意点等
コンセプトは「診断はCTで,治療はカテーテルで」
当クリニックでは,優れた時間分解能を有するMDCT,Dual Source CT(DSCT):SOMATOM Definition(シーメンス社製)を使用して検査を施行している為,高心拍や不整脈患者においても比較的ぶれの少ない画像が得られている.
しかし,診断精度の向上と正確な画像診断を行うことを目的に,撮影時前心拍数75bpm以上の患者に対しては,禁忌の症例を除いて,β遮断薬(注射用ランジオロール塩酸塩)を使用している.
その理由としては,心拍数69bpm以下では80%の症例で拡張中期での画像再構成が可能であるためである.(図1)
拡張中期で再構成を行うことで,有意にクオリティーの高い静止した冠動脈の画像が得られる確率が高く,診断精度も高い.
小規模であるがゆえの迅速ワークフローを実現する
当院では,心臓CT検査は,撮影15分,画像解析15~30分で実施している.
初診患者でも,初診日の当日に心臓CT検査を行い,解析作業が終了し次第,即日,結果画像の説明を実施している.
胸痛患者の中には,不安定狭心症患者が含まれていることがあり,検査後,結果説明日までに心筋梗塞を発症する可能性もある為,大病院では,初診日,検査日,結果説明日と数日要するところを,1日で完結するように正確で迅速なワークフローで検査を行っている.
被ばく低減への取り組み
心臓CT検査は被ばく線量が多いことが問題視されている為,画質のクオリティーを保ちながら被ばく低減に努めなければならない.
当クリニックでは,基本的に心機能評価や弁の評価を行う為,retrospective gating法でECG-controlledtube current modulationを使用している.そして,診断に十分な画質を保ちながら,可能な限り適切な管電流設定をして撮影を行い,被ばく低減を行っている.
今後,逐次近似画像再構成(SAFIRE)も導入予定であり,積極的に使用して被ばく低減に努めたい.
診断精度の向上の為に,高濃度造影剤を使用
注入速度は,体重により可変する方法を基本として,注入速度=体重(kg)×0.07mL/secで設定を行っている.
数ミリの冠動脈を正確に評価するには,十分なコントラストが必要とされる為,高濃度造影剤を使用し,冠動脈のCT値が350HU程度になるよう注入速度の設定を行っている.
しかし,被験者の心機能によって造影効果にばらつきがでる為,事前に心エコーの情報を参考にしながら,造影剤注入量,注入速度の調整を行っている.
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症例解説・画像所見
患者背景 | 50歳代 男性(身長 : 180cm,体重 : 79kg) |
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主訴 | 胸痛 |
診断名 | stent jail |
現病歴 | 高血圧/高脂血症 |
症例解説
PCI術後フォローの心臓CT検査でLAD#6stentが本幹にjailしていた為,PCIを施行した.
IVUSを施行したところ,DXのdistalでstrutがLAD側にjailしていた為,ballooningし,stentを拡張した.
使用上の注意
9. 特定の背景を有する患者に関する注意 【添付文書より抜粋】
9.1. 合併症・既往歴等のある患者
9.1.3. 重篤な心障害のある患者
診断上やむを得ないと判断される場合を除き、投与しないこと。血圧低下、不整脈、頻脈等の報告があり、重篤な心障害患者においては症状が悪化するおそれがある。
9.1.11 高血圧症の患者
血圧上昇等、症状が悪化するおそれがある。
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まとめ
心臓CTでは,冠動脈の起始部の情報,狭窄部位の位置情報,事前に冠動脈狭窄部位の最適な角度を把握し,さまざまな情報を考慮してシミュレーションを行なうことで,PCIの施行時間の短縮をはかり,被ばくや造影剤使用量の低減が可能となり,患者や術者の負担を減らすことに貢献している.
CAGは,luminologyで,2次元の投影図(影絵)として描出されるため,狭窄の評価には限界があり,focalで求心性の狭窄は,血管造影装置の角度制限上,狭窄の評価が正確に診断できない場合があるので注意が必要であり,角度の制限なくあらゆる方向から観察できるCTの方が有用である.
また,血管内にplaqueが連続してdiffuseに続く場合,CAGでは,血管径が細いと錯覚してしまい,正確な血管径を把握できずに小さいstentを留置したり,放置したりすることがある.
その点,CTでは血管径や病変長が把握でき,また,血管周囲の石灰化の状態からstentで拡張できるかどうかの判断もでき,治療の判定に有用である.
しかし,高度石灰化や3.0mm以下のステントに関しては,診断が困難な場合がある為,さらなる,空間分解能と時間分解能の向上とDual-Energy Scanningに期待したい.
非侵襲的であること,情報量の多いこと,狭窄判定の正確性から,冠動脈画像診断がカテーテル造影検査から心臓CT検査に置き換わっていくことになるでしょう.