心臓CT(心室中隔欠損)
- ご紹介する症例は臨床症例の一部を紹介したもので、全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。
- 効能又は効果、用法及び用量、警告、禁忌等を含む使用上の注意につきましては、添付文書をご参照ください。
イオパミロン注370シリンジ 60mL使用例
心室中隔欠損に合併した右室二腔症を心臓CTにて診断できた症例
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はじめに
当院(病床数989床)は,千葉県東部及び茨城県鹿島地区の基幹施設(診療圏人口約100万人)として全ての診療科を掲げ,特に循環器科は,全国有数の診療実績を誇る科の一つである.その中で心臓CTの果たす役割は大きく,特に2009年6月に320列CTを導入してからは,少ない患者負担で冠動脈を評価できる非侵襲的診断法の一つを確立している.
2011年1年間では,心臓CTの総件数は1,045件で,そのうち178件(17.0%)に対して,後に冠動脈造影検査(CAG)または経皮的冠動脈形成術(PCI)が施行されている.一方で,2011年のPCI総件数は608件であるが,スタンバイPCIに限る355件のうち,104件(29.3%)が,心臓CTを撮像した後に行われていた.これらには,PCI後にステント内再狭窄や別の冠動脈に狭窄が生じた症例も含まれており,PCI後の患者においては,心臓CTは,心臓核医学検査と合わせて不可欠な画像検査となっている.
また,全身麻酔での手術が予定されている患者において,心臓CTが冠動脈スクリーニングとして,循環器科以外から依頼される機会も増加している.
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心臓CTの適応について
日本循環器病学会から,「冠動脈病変の非侵襲的診断法に関するガイドライン」が2009年に発表され,心臓CTに関しても詳細に記載されている.安定狭心症,急性冠症候群(ACS),経皮的冠動脈形成術(PCI)及びCABG術後の評価,その他の冠動脈疾患(川崎病,冠動脈奇形),無症候性高リスク症例における心臓CTの適応が述べられている.特に,ACSにおいては,来院時の心電図や血液生化学検査にてACSと結論づけられない中もしくは低リスク群の場合に,心臓CTは良い適応とされている.当施設では,胸痛患者に対して早期に施行する心臓CTがACSの除外に有用とあると考えて,320列CTを導入した2009年7月から検査枠を1日5件に増やした.これにより,午前中の依頼で当日検査ができる環境が整っている.
また,PCI後の患者にとって,術後の冠動脈造影検査(CAG)を心臓CTにて代用できれば,その意義は非常に大きく,ステント径や冠動脈石灰化などによる制約はあるが,ステント内狭窄をできる限り心臓CTにて評価するようにしている.
虚血性心疾患の診療において,心臓CTが重要な役目を果たしていることを述べたが,心房心室の形態異常や,左右短絡を含めた異常血管を診断する際にも,心臓CTは有用である.プロトコールを少し工夫することで,心臓の形態異常に関する情報についても,冠動脈の情報と合わせて提供してくれる.
当院で2011年に施行した心臓CTの中で,ステント内を含めた冠動脈の評価を目的した検査は,冠動脈バイパス術(CABG)後の57件を含めて,1,018件(97.4%)を占め,心房心室の形態評価を主な目的とした検査は残りの27件に過ぎない.但し,冠動脈のスクリーニング検査として施行した心臓CTにて,左右短絡などの形態異常が見つかる例も稀ではない.
高濃度のヨード造影剤を急速投与して等時相性に撮像することにより,僅かな左右短絡が明確に描出されることは経験している.更に,線量変調(ECG dose modulation)で被曝低減をはかり,収縮期ー拡張期を撮像することで,壁運動も評価できる.この点では,MRIが優れた点も多く,CT検査の適応が限られるが,瘻血管などの血管奇形や冠動脈も併せて短時間で評価できるのは利点であろう.
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撮像プロトコール
使用装置 | CT機種 | Aquilion ONE 【東芝社製】 |
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自動注入器 | デュアルショット GX 【根本杏林堂社製】 | |
ワークステーション | ZIOSTATION 【ザイオソフト社製】 |
撮像条件 | 心電図同期 | Prospective | |
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Scan Mode | Volume(Prosp.CTA) | ||
スキャン条件 | 管電圧 | 120kV | |
管電流 | 250~500mA AEC : Volume EC(SD 25.0mA) | ||
撮影スライス厚 | 0.5mm | ||
スキャン速度 | 0.35 or 0.375 or 0.4 sec/rot( 心拍により変動 : Heart NAVI) | ||
ピッチ | ー | ||
スキャン開始部位 | 冠動脈最上部から20mm上 | ||
スキャン終了部位 | 心尖部から20mm下 | ||
スキャン範囲 | 128~160mm | ||
総撮影時間 | 1~3 心拍( 心拍により変動:Heart NAVI) | ||
撮影方向 | ー | ||
再構成 | スライス厚/間隔 | 0.5mm / 0.25mm | |
再構成関数 | FC=4 AIDR3D : standerd( ステント・高度石灰化 : FC=50 AIDR3D : strong) |
造影条件 | 使用造影剤 | 注入量 | 注入速度 | スキャンタイミング |
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イオパミロン注370 | 30~50mL | 3.0-5.0mL/sec(10秒間注入) 男子:0.065mL/kg/sec (5.0mL/secを上限) 女子:0.060mL/kg/sec (3.0mL/sec以下は濃度調節) |
Bolus trucking法 Real Prep: 下行大動脈にROI設定 (寝台固定・閾値230HU) |
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生理食塩液 | 30~40mL | 3.0-4.0mL/sec (10秒間注入) |
撮像条件・注入条件設定における留意点等(1)
心臓CTにて冠動脈を撮像する際には,撮影時の条件が画像解析に与える影響は大きく,検査結果を左右することになる.
患者側要因として,心拍数や心拍出量などの心機能に関係する要素や冠動脈石灰化などが重要であり,不整脈に関しては無視はできないが,320列CTを導入してからはその影響が少なくなった.高心拍患者に対して,β遮断薬の投与は必須であり,以前には,β遮断薬(メトプロロール酒石酸塩錠 20mg)を硝酸剤(一硝酸イソソルビド錠10mg)と合わせて来院時に内服してもらっていた.前投与薬を内服してから約1時間後に撮像を開始するが,検査終了後も,血圧低下が遷延する症例をしばしば経験した.
冠動脈CTの前投与薬として,短時間作用型β1選択的遮断剤である注射用ランジオロール塩酸塩が,2011年9月に保険収載された.当院では,2012年から前投与を,注射用ランジオロール塩酸塩と速効性ニトログリセリンエアゾール製剤に変更した.すなわち,速効性ニトログリセリンエアゾール製剤を舌下に1回噴射してから心拍数が60bpm以上の場合には,適正量の注射用ランジオロール塩酸塩(半減期4分)を静注する.この方法では,心拍数の低下がやや不十分な症例も存在するが,検査時間の大幅な短縮が実現できる.
二段注入法
拡張期から収縮期までを撮像し,冠動脈と左心室の形態を同時に評価できる.
クロス注入法
冠動脈と左右心室の形態を同時に評価できるが,左右短絡の評価は劣る.
右室腫瘍や血栓では,3分後に追加撮像し,不整脈源性右室心筋症を疑う場合は,8分後に遅延相を追加する.
二相注入法
2回撮像することで,冠動脈,左右短絡,及び左右心室の形態を評価する.
撮像条件・注入条件設定における留意点等(2)
検査側要因としてCT機器は無論のこと,造影剤も検査を左右する.高濃度ヨード造影剤(イオパミロン注370シリンジ)を急速注入することで,タイミングを間違わなければ,通常の体幹部CTと比べて半分の造影剤の使用量で,冠動脈を300HU以上に造影できる.
造影剤の注入方法としては,注入速度及び注入量を可変にして,注入時間を一定にしている.男女体重別に注入量を決定することで,均一な造影効果を図っている.しかし,造影効果は,心拍出量の影響も受けるため,低心拍が推定される患者では,注入量を変えずに注入速度を落としている.さらに,うっ血性心不全や駆出率(Ejection fraction)が35%以下の患者では,Test injection法を用いて,撮像タイミングを決定している.
造影剤のボーラス投与による通常の冠動脈CTでは,右心系に造影剤はほとんど残らない.従って,左右短絡は明瞭に描出されるが,心室中隔や右心系の形態評価はできない.心臓CTでは,冠動脈以外の情報が求められる場合もあるため,幾つかの注入方法を実践している.
二段注入法では,撮像時に右室に少量の造影剤が残存するため,心室中隔の厚みが評価でき,左室の壁運動を評価するために収縮期から拡張期を撮像している.但し,線量変調を使用しているので,被曝は低く抑えられている.クロス注入法では,右心室により多くの造影剤が残存するため,冠動脈と併せて右心系が評価できる利点があるが,二段注入法と比べて,左右心室の濃度差が少なく,左右短絡の描出が劣る可能性がある.
二相注入法は,2回撮像することで,通常の冠動脈CTAに加えて,左右心室の形態評価に優れるが,造影剤の使用量や被曝が増加するので,症例を選んで施行している.
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症例解説・画像所見
30歳代 女性(体重 : 47kg)
心室中隔欠損(Ⅲ型)の既往.心臓超音波検査で,右室流出路に狭窄所見を認め,右室二腔症の可能性が考えられた.
症例解説
心室中隔欠損は,右室流入部への逆流から,Ⅲ型(Kirklinの分類)であると考えられる.冠動脈に最適なタイミングでは逆流が明瞭に描出されが,右心室の形態評価はできないため,二相注入法にて造影剤を注入し,二相撮像した.右室二腔症と考えられる発達した異常筋束により,右室の流出部がやや狭小に描出され,超音波にて観察された右室流出路のモザイク血流との関連が示唆される.右室負荷の症状及び検査所見がないため,外来にて経過観察する方針となった.
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まとめ
心臓CTの主な目的は,冠動脈の評価であり,冠動脈のCT値を推奨値である350-400HUにする為には,高濃度ヨード造影剤が最も適している.また,心腔や心筋の形態異常についても,冠動脈と同時に評価できることを,造影剤の注入方法と併せて紹介した.心臓の形態異常を評価するためには,冠動脈だけを評価する場合に比べて,被曝量が多くなる.それでも,被曝低減技術を使うことで,通常の体幹部CTより少ない被曝での撮像が可能である.また,造影剤の使用量も少なくて済み,患者負担の少ない検査と言えよう.
循環器診療では,血管形成術(PCI)を施行した後の経過観察では不可欠な検査となっているほか,冠動脈バイパス術(CABG)を行った場合は,当施設では退院前の評価として心臓CTが施行される.更には,冠動脈造影(CAG)にて閉塞を認めた場合に,心臓CTにて石灰化や閉塞長を評価してから,CT画像を指標にPCIを行うことも日常診療で行われている. 高心拍や冠動脈の石灰化などの悪条件での撮像が改善できれば,心臓CTの適応が更に拡大すると考えられる.β遮断薬を使用せずに撮像ができる最新鋭のCT機器も存在するが,β遮断薬を複数使用する施設も存在する.心拍数を65bpmまで低くできれば,ある程度の石灰化症例でも血管内腔を十分に評価できると考えている.従って,高心拍患者に対しては,β遮断薬を積極的に使用することが望まれる.
64列CTを超えたCT機器が市場に参入してから久しく,今後はこうした最新鋭のCT機器による心臓CT検査が,循環器専門病院のみならず,普及していくだろう.
使用上の注意
9. 特定の背景を有する患者に関する注意 【添付文書より抜粋】
9.1. 合併症・既往歴等のある患者
9.1.3. 重篤な心障害のある患者
診断上やむを得ないと判断される場合を除き、投与しないこと。血圧低下、不整脈、頻脈等の報告があり、重篤な心障害患者においては症状が悪化するおそれがある。